【書方箋 この本、効キマス】第72回 『ウドウロク』 有働 由美子 著/影山 貴彦

2024.07.04 【書評】
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硬軟混ぜつつ内心を表出

 1991年に入局後、NHKアナウンサーとして27年の長きにわたって活躍した後にフリーに転身、2018年秋から今年の春まで日本テレビ系の看板番組『news zero』のメインキャスターとして活躍し、現在は俳優の松下洸平とともに、同じく日本テレビ系の音楽番組『with MUSIC』の司会を務めている有働由美子。彼女の活躍は改めて語る必要はないほどだが、実力と人気を兼ね備えた日本を代表するアナウンサーとして、筆頭に挙げられる人だろう。

 本書は、そんな有働が心の内なる襞を柔らかく表出させたエッセイだ。「ウドウロク」を逆に読むと「クロ(黒)ウドウ」。すなわち本音丸出しのエピソード満載で、大いに引き付けられる。

 14年10月に単行本として刊行された後、18年5月に文庫化された。単行本が出たのは、井ノ原快彦と共に司会を務めていた『あさイチ』が大人気の頃で、彼女はまだNHKの職員だったが、フリーになったタイミングで文庫本になっている。出版した新潮社の商売上手なところでもあるが、新たな読者のために加筆されている箇所がまた面白い。文庫版のあとがきに、「(NHKを辞めて)今はまだ、不安だらけです。でも少々経年劣化した体を休めたら、取材や勉強をもう一度、始められればと考えています」と綴られている。このあとがきを書いた半年後に、『news zero』のキャスターに就任する。ちなみに彼女が現在所属する事務所には、くりぃむしちゅーの2人やマツコ・デラックスが所属している。いわゆるアナウンサーが在籍しない事務所を選んだあたりは、キャラクターの魅力がとりわけ光る有働ならではだろうか。

 エッセイのほんのさわりを紹介する。独身生活ゆえか、レジを待つ有働のスーパーのかごにあまり商品が入っていないことに興味を持った女の子が、「おかあさん、この人のかごはさびしいね」と母親に言う。軽く流すかと思われた女性はなんと、「そんなかわいそうな人のかごの中とか、見てはだめ」と娘をなぜかたしなめる。「女の子はかごがさびしいって言っただけなのに…」と有働は心の中で思いつつ、そのレジから一番遠いカウンターで商品を詰めた。

 「紫綬褒章」という漢字が読めず、記者のデスクに、「なんでこんな漢字も読めないんだ!」と問い詰められた有働は、「それをもらったことがないからです」と大まじめに答え、さらに怒られたという。いずれも彼女の人柄がストレートに伝わるエピソードに、にんまりしてしまう。同時に、概ね事実には違いないだろうが、そこには持ち前のサービス精神から読者をしっかり楽しませようという関西人気質も漂う。

 もちろん、柔らかい話ばかりではない。アメリカ総局特派員時代にまつわるエピソードには、彼女の努力家の一面が滲んでいた。珠玉なのは、彼女の母親、そして父親に関して記されている箇所だろう。天国に旅立った母親に「彼女には(このエッセイを)読ませたかった。大人のオンナとオンナとしてじっくり話をしてみたかった」という言葉は深く響いた。

(有働 由美子 著、新潮文庫 刊、税込572円)

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同志社女子大学 メディア創造学科 教授 影山 貴彦 氏

選者:同志社女子大学 メディア創造学科 教授 影山 貴彦(かげやま たかひこ)
毎日放送を経て現職。著書に『テレビドラマでわかる平成社会風俗史』。

 レギュラー選者2人とゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”にどうぞ。

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令和6年7月8日第3456号7面 掲載
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