中小企業も心の健康対策を/井上社会保険労務士事務所 井上 洋

2013.02.04 【社労士プラザ】

井上社会保険労務士事務所
井上 洋 氏

 ここ数年、労働者のメンタルヘルスに関する相談が増加している。つい最近のことだが、とある企業で労働者が失踪する事件があった。労働者数30人程度の企業A社において、営業マンBが得意先との重要なアポイントメントを失念してしまい、営業上の損失を生じさせてしまった。上司から叱責を受けたBは、家族にも行き先を告げず、翌日から行方不明となった。会社には無断欠勤の状態であり、家族や会社からの電話やメールにも一切返答がなかったことから、一時は最悪の事態も想定されていた。この間の家族や会社関係者の心労はいかばかりであっただろうか。

 結局、本人から会社に連絡が入り、無事が確認されたときには、失踪してから2カ月が経過していた。周囲が強く勧めて医師に受診させたところ、うつ病との診断であった。

 その後の会社との面談において、今回の営業上のミスが失踪の直接のきっかけではあるものの、現在の担当職務がずっとプレッシャーになっていたこと、家庭内のトラブルも抱えており、かなり以前から精神的に不安定な状態であることを自覚していたこと、苦しかったが誰に相談して良いか分からず悩んでいたこと、自分から精神系の医師に進んで足を運ぶのもためらいがあったことなどが明らかになった。職場の上司は、何となくBの表情が暗いとは思っていたが、ここまで悩んでいたとは気がつかなかったと悔やんでいた。

 会社から今回の事件をきっかけに、労働者のメンタルヘルスについて、企業としての対応に関する相談を受けたので、メンタルヘルスの問題はどの企業でも起こり得ることであり、そのために労働安全衛生法では常時50人以上の事業場では産業医の選任義務が課せられていることを説明した。さらに、これに該当しないA社のような事業場のためには、地域産業保健センターでメンタルヘルス対策支援センター事業が実施されているので、その事業を活用してほしいと伝えた。

 なお、後日談であるが、Bに対して会社は休職を提案したものの、本人が、今後の生活のこともあり就労を強く希望したことから、定期的な通院を条件に、本人同意のうえで降格となった。

井上社会保険労務士事務所 井上 洋【東京】

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掲載 : 労働新聞 平成25年2月4日第2907号10面

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