小田急電鉄事件(東京地判令5・12・19) 覚醒剤を所持使用して逮捕され退職金不支給に 犯罪行為で“勤続の功”抹消
覚醒剤の所持、使用で有罪となり懲戒解雇された主任が、退職金不支給は違法として約1000万円を求めた事案。東京地裁は、相当重い犯罪類型であり、永年勤続の功労を抹消するほどの不信行為として請求を退けた。社内で再発防止教育に要した時間数や監督官庁への報告など社内外に影響が及んでおり、報道等がなかったのは偶然で労働者に有利に斟酌すべきでないとした。
社内外に影響及ぶ 事件報道なくても
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
Xは、平成7年4月、Yに雇用され、主に車両検査業務に従事し、令和4年当時は車両検査主任として勤務していた。
Xは、平成29年頃から、密売サイトを通じて覚醒剤を購入し、1カ月に4回、休前日である金曜日や土曜日に吸引して使用するようになった。Xは、令和4年4月19日、職場を無断欠勤し、交際相手とドライブに行った。その際、交際相手は、覚醒剤と吸引具等を発見し、帰宅後にXの父親に渡した。Xの父は、これらを警察署に任意提出した。Xは、同年6月4日、自宅で警察官に任意同行を求められてこれに応じ、覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕された。同月6日には、Xの自宅の家宅捜索の結果、覚醒剤計1.244グラムが発見された。Xは、覚醒剤所持および使用の罪をすべて認め、同年9月28日、懲役2年執行猶予3年の有罪判決を受け、確定した。
Yは、令和4年7月7日、覚醒剤所持および使用(以下「本件犯罪行為」)を理由にXを懲戒解雇する旨の意思表示をした。Yは退職金等の金額(退職一時金267万余円、確定給付企業年金802万余円)を不支給にした。
そこで、Xは不支給とされた退職金等の支払いを求めて提訴した。
なお、Yの退職金支給規則には「懲戒解雇により退職する者(略)には、原則として、退職一時金は支給しない」との規定が、確定給付企業年金規約には「加入者又は加入者であった者が、次の各号に定める(略)理由により実施事業所に使用されなくなった場合には、給付の全部又は一部を行わないことができる。
(1)窃取、横領、傷害その他刑罰法規に触れる行為により、事業主に重大な損害を加え、その名誉若しくは信用を著しく失墜させ、又は実施事業所の規律を著しく乱したこと」との規定があった。
本判決はXの請求を棄却した。
判決のポイント
Yにおいては従業員の資格及び役割に応じて1年を単位に月割で付与される退職金付与ポイントを基礎として退職一時金、確定給付企業年金等の額が定められる仕組みとなっており、退職金は賃金後払的性格を有していると認めることができる。こうした退職金の性格に鑑みれば、…
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