【主張】見えてきた実質賃金上昇

2015.10.12 【社説】

 厚生労働省の平成27年版労働経済白書は、実質労働生産性が上昇しているにもかかわらず、実質賃金が一向に改善しないわが国の特殊要因を明らかにしている。付加価値は拡大傾向にあるものの、その配分先が営業利益優先となっており、その結果、労働分配率が趨勢的に低下していることが主因とした。

 アベノミクスの「第2ステージ」に突入し、政府はあらゆる手を尽くして成長戦略と経済改革に努めるとしているが、実質賃金の上昇に結実しなければ、持続的エンジンが掛かったとはいえない。企業は、白書の分析を重く受け止め、労働分配率に十分配慮した経営政策を確立すべきである。ようやく光明が差してきた日本経済を腰折れさせてはいけない。

 わが国の実質賃金と実質労働生産性の傾向は、ユーロ圏諸国、アメリカとでは大きく異なっている。ユーロ圏などでは、ここ20年にわたり実質労働生産性の上昇とともに実質賃金も上昇を続けている。わが国に限っては、実質賃金の伸び悩みが長期間継続する厳しい状況にある。

 白書では、その要因を財務省の「法人企業統計」に基づき、企業の付加価値に占める営業利益率の拡大にあるとした。とくにバブル崩壊後の1998年以降にその傾向が顕著である。営業利益は、役員賞与や配当、内部留保に向けられる。これに対して、付加価値に占める人件費の割合(労働分配率)は、99年に70%を超えたものの、その後頭打ちとなり、近年まで67%前後で推移している。非正規が増加した影響もあろう。

 しかし、2014年からは局面が変わってきた。経団連が企業の財務体質改善を前提としたベアを容認し始め、2%超の賃上げが連続した。賃金上昇は、その後の労働生産性向上を促すとみられ、こうしたサイクルがアベノミクスを支えるカギになる。所定内給与が1%増加すると、マクロの個人消費が0.59%押し上がるという推計もある。

 そして今年7月の毎勤統計確報では、実質賃金がとうとう前年同月比0.5%のプラスに転換した。この流れを確実なものにしていきたい。

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掲載 : 労働新聞 平成27年10月12日第3036号2面

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