コロナ禍と在籍出向の活用可能性/弁護士 飯島 潤

2021.06.27 【弁護士による労務エッセー】
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 以上を前提に、就業規則や労働協約等において、出向の対象企業、出向中の労働条件、出向期間、復帰条件(復帰時の労働条件、退職金計算での勤続年数の通算等)について出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が定められていることを要すると考えられています。「出向労働者の利益に配慮した詳細な規定」が何を指すかについての明確な基準は見当たりませんが、例えば、出向の対象企業については、労働者から見てある程度予測できる記載(及び予測できる実態)とすることが重要であると考えます(JR東海出向命令効力停止仮処分申請事件(大阪地決昭和62年11月30日・労働判例507号22頁)参照)。

 なお、雇用調整を目的とする場合の出向命令権の要件について、「やや特別な性格を帯びるのは、雇用調整策(とくに解雇回避策)としての出向であるが、この場合にも雇用調整の必要性それ自体が出向義務(出向命令権)を創設するものではなく、基本的には上記の枠組みによってその有効性が判断されるべきである」(菅野和夫「労働法」(第12版737頁))という指摘があります。

 そのため、雇用調整の目的であるからといって、出向命令の要件自体が緩和されるわけではありませんので、上記規定の整備が必要であることに変わりありません。

イ 出向命令の権利濫用

 出向命令権が認められる場合であっても、その命令が権利濫用に該当する場合、無効になります(労契法14条)。具体的には、①出向の必要性、②対象労働者の選定に係る事情(人選基準の合理性とその具体的適用の合理性)、③その他の事情(出向による生活関係、労働条件等における不利益の有無や程度及び出向発令に至る手続の相当性等)が考慮されます。

 在籍出向の場合、指揮命令者が出向元から出向先に変更すること等から、労働者に対する不利益の観点から権利濫用に該当する可能性が相対的に高くなります。

 なお、労働組合との間の労働協約に、出向に関する事前協議(事前同意)条項がある場合には、これを履行する必要があるため、注意が必要です。

4 産業雇用安定助成金等の受給を前提とする場合

 上記3(2)は、(労働者の同意なく)出向を命じる場合を前提にしています。

 しかし、在籍出向に関し、産業雇用安定委助成金や雇用調整助成金の受給をする場合、少なくとも出向労働者本人の同意が必要とされています。また、上記③の雇用調整を目的とする出向の場合、その他の目的と異なり、当初想定されていた出向先とは違う企業への出向になることもあり得ますし、配転と比較して労働者への影響も相対的に大きくなる可能性があります。

 そこで、雇用調整を目的とする出向の場合、実務的には、助成金の受給を前提にするか否かに関わらず、出向労働者の同意を得ることが望ましいと考えます。

 この点について、コロナ禍において、ある航空会社の出向プログラムは、全て公募制であるとの報道がありましたし、また、ある鉄道会社が労働組合との間で、グループ外への出向を前提とする出向協定を締結したとの報道もありました。

 他方で、出向命令を行う場合、上記3の要件が必要であることを再確認しておく必要があります。

5 まとめ

 コロナ不況により一時的に余剰人員を抱える出向元からすると、従業員を留めつつ人件費の抑制を行うことができますし、出向先からすると、人手不足を補うことができます。

 また、労働者側からすると、出向元に籍を残しつつ他社で経験を積むことができます。

 そのため、労働者としても、キャリア形成の一環として、コモディティな(個性のない)労働力ではなく、スペシャリティ(専門性、特殊性といった非代替性)を有する労働力となるべく、在籍出向を前向きに捉えることも可能ではないでしょうか(もちろん出向に際し、企業が法的ルールを遵守することが前提です)。

 このように、在籍出向には、出向元、出向先及び出向労働者の相互にメリットが生まれる側面があるため、その活用可能性を見出すことは、検討に値すると考えます。


弁護士 飯島 潤 氏

弁護士 飯島 潤(いいじま じゅん)
(多湖・岩田・田村法律事務所)

【経歴】
早稲田大学法学部卒業
中央大学大学院法務研究科修了
【所属】
第一東京弁護士会
第一東京弁護士会労働法制委員会
経営法曹会議
【取扱業務】
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
【著書】
『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)
『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)。

多湖・岩田・田村法律事務所のWebサイトはこちら
http://www.tamura-law.com/

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